東京高等裁判所 昭和27年(ツ)8号 判決
上告人
藤森子志
外三名
被上告人
神永せい
〔抄録〕
期間の定なき家屋の賃貸借につき正当事由に基く解約申入をした賃貸人は、賃借人をして告知期間経過と同時に賃貸家屋の返還,すなわち、明渡の請求をする権利を有するものであり、この請求権は右期間経過前においては所謂将来の給付を求める権利に外ならないものであるから、賃貸人は右期間経過前予め、その請求をする必要があるときは民事訴訟法第二百二十六条に定める将来の給付を求める訴によりその権利の保護を受けることができるものといわなければならない。尤も解約申入に因り賃貸借が消滅する為には解約申入につき必要とする正当事由が告知期間経過の時迄なお存続することを要すべきものであることは所論の通りであるけれども、かかる事実は右将来の給付の訴の提起の妨げとなるものではない。もし、そうでないとしたならば、賃貸人が現情の変更に因り告知期間経過後その権利の実行を為すことができないか、又は之を為すに著しき困難を生ずる虞があるか、その他回復すべからざる損害を生ずる等の場合においても、予め権利の保護を求めることができないで、徒に期間経過迄拱手傍観していなければならないこととなり、かくては民事訴訟法において将来の給付を求める訴を認め、広く権利の救済を為さんとする法の精神に背馳する結果となるからである。それ故、原審が本件につき原判示の如く本件家屋の賃貸人たる被上告人において賃借人たる上告人に対し予め家屋の明渡を請求する必要がある事情を認定した上被上告人は将来の給付を求める訴を提起し、その権利の保護を求めうる旨断し、訴却下の第一審判決を取消し、事件を第一審裁判所に移送したのはもとより正当である。これに反する所論は、要するに上告人独自の見地に立ち原判決を非難するものであつて、到底採用するに足りない。